2016.02.08更新

犬の軟部組織肉腫はここでも何度かご紹介しておりますが、再びご紹介したいと思います。

軟部組織肉腫に関しては以前説明したものを参考にして頂ければと思います。

簡単にまとめると、転移することはあまりないが局所浸潤性が強く、最初の手術でしっかりとれなければ再発の可能性が高い腫瘍です。

とにかく最初の手術で可能な限り腫瘍をバリアになるもので包みながら切除することが重要です。

しかしこの腫瘍は四肢にできることが多く、そこで問題になるのが切除した後の皮膚の縫合です。ただでさえ四肢は皮膚が少ないところです。体幹であればわりと皮膚が余っていますので大きく取っても皮膚は寄せて縫合できます。しかし前肢の肘より下はまず皮膚が寄りません。肘より上であれば皮弁法という皮膚を一部切り離さずに切り出した皮膚で覆うことも可能ですが肘より下はそれもできません。なかなか悩ましい腫瘍なのです。

今回ご紹介する犬は手根関節の裏にできた軟部組織肉腫の例です。ちなみに私の愛犬のポーさんです・・・。



手根関節の裏に位置しています。


最近のはなしでは水平方向は1㎝もあれば十分ということも言われておりますのでマージンはそのくらいとって切除しています。本来であればもう少しマージンを取った方がいいに決まっていますが実際のところはそうなると皮膚移植などが必要になり入院期間が長くなるし、皮膚が壊死する可能性もあるし・・・ということでまあそのくらいとなっているのです。もちろん体幹部の軟部組織肉腫は皮膚がたくさんあるところなのでそれなりに十分なマージンを取った方が安全です。


垂直方向のマージン、つまり腫瘍の底部に関してはやはりこの部位では多くとることはできません。1㎝深く切除すると歩けなくなってしまいます。そこで丈夫なバリアになりそうな膜を探します。この部位では筋肉の表面にある筋膜があります。この筋膜を慎重に筋肉からはがし、腫瘍が顔を出さないように筋膜で包みながら切除するのです。メスで細かく細かく剥がしていきます。


手根部はかなり入り組んでいますので腫瘍が深い部位に入り込んでいます。その部位も腫瘍が露出しないように筋膜を剥がしていきます。


なんとか筋膜が連続性を保った状態で切除できました。


腫瘍を切除した状態です。


もちろん皮膚はよせても届きません。


そこで皮膚を格子状に切開していきます。これにより皮膚を寄せることが可能になります。

縫合した状態です。このあと包帯を巻いて、2日おきに交換していきます。


切除した腫瘍の底部です。腫瘍を薄い筋膜が覆っています。病理検査の結果は腫瘍は取りきれているという判断でした。


手術後10日経過した時の状態です。


2週間後の状態です。


1ヶ月後の状態です。


軟部組織肉腫は転移率は低いのですが非常に厄介な腫瘍です。以前は多くの場合、断脚が選択されていました。それほど再発率が高く、再発後は再度手術しても腫瘍は残存してしまいますので、再発は時間の問題です。その後増大していき自壊し、出血、感染を起こし全身状態が悪化していき衰弱していきます。

下の写真は軟部組織肉腫が肘の外側にあり、肘の深部に浸潤しており断脚をするかそのままで経過を見ていくか非常に迷った例です。結局15歳という年齢と肥満のため(コーギーで肥満なので断脚後は歩行が困難と判断)断脚せずに経過を見ていきました。数ヶ月後、腫瘤が自壊し出血が止まらなくなりました。急速に貧血が進行し、Mohsクリームで出血をおさえる処置を繰り返しましたが結局最後は患部からの感染で全身状態が急激に悪化し亡くなってしまいました。状況から考えて断脚はした方がよかったとは思いませんが、軟部組織肉腫が直接死因になってしまったのを目の当たりにして、やはり恐ろしい腫瘍だなと再確認しました。


Mohsクリーム処置後。この処置を繰り返し出血をある程度コントロールしていたが・・・。


長々と書いてきましたが、やはり全ての腫瘍で言えることは早期発見早期治療がすべてです。そして1回目の手術でいかにしっかり切除できるかがその後の人生を左右します。
似たようなシコリを見つけた際には動物病院に相談しましょう。





投稿者: 制作