2015.12.11更新

犬の肛門嚢炎はよく見られる病気です。
肛門嚢とは皆様がよくご存知の肛門腺が溜まる袋です。スカンクのお尻にある匂い袋と同じで肛門の両脇にある肛門腺という分泌腺であります。この肛門嚢の中の分泌物が多く産生されるようになったり、袋の中にばい菌が入って炎症を起こしたり、袋の出口が肛門の近くにあるのですがその部位が詰まってしまうと肛門嚢炎を起こします。酷い場合には破裂して肛門の脇に穴が開き、膿が出てきたりします。

治療は抗生剤、消炎剤などの内服で治療します。その後、分泌物が溜まりすぎないように定期的に絞り出してあげます。これで良くなることがほとんどですが中には慢性的に炎症を起こし続け、繰り返し破裂することもあります。この場合には外科的に肛門嚢を切除することを考えなくてはなりません。肛門嚢炎は痛みがありますので気になってお尻をこすったり、なめ壊したりすることもあります。そして不機嫌になります。お尻の近くを触ろうものなら噛みついてくることもあります。従って内科治療でうまく完治しない場合にはその痛みを取ってあげるという意味でも外科的に切除してすっきりさせてあげた方が良いと考えます。

今回、手術を行ったワンちゃんは約1年間慢性炎症があり、破裂を繰り返していました。いくつかの動物病院で治療を受け、その際に手術をした方がいいと言われたり、しないで抗生剤を長く飲ませた方がいいと言われたりで治療に迷い、約1年経過してしまいました。私の考えでは2、3度破裂を繰り返した場合には外科的に切除した方がよいと考えていますので強く手術をすすめました。飼い主様の了解が得られたので手術にて両側の肛門嚢を切除しました。


まず、肛門嚢の位置をわかりやすくするために肛門嚢内に詰め物をします。



肛門の脇を切開し肛門嚢を分離していきます。すでに何回も破裂しているので肛門嚢は結合織で固くなっていました。やはりこうなる前に手術するべきですね。早めに手術した場合と比較して手術時間は倍以上になります。


やっとのことで分離した肛門嚢です。


肛門嚢を肛門脇にある開口部まで丁寧に分離します。


そして、開口部の部位で結紮して、肛門嚢を切り取ります。


切除した後の状態です。きれいにとれました。


皮膚を縫合した後、反対側も切除します。


手術終了です。手術後は1週間程、抗生剤と痛み止めを飲んでもらいます。


10日後の抜糸した時の状態です。


その後、定期的に経過を診ていきましたが、手術以降はお尻を気にすることも無く、良好に過ごしています。そして飼い主様が驚いていたことは手術後はとても機嫌が良さそうで下半身を触っても噛みついてくることが無くなったということです。やはり痛みというのはワンちゃん達にとってもとても辛いものなのです。「先生、すみませんでした。もっと早くに手術しておけば良かった。」と飼い主様が仰っていましたが、謝るのは私ではなく、ワンちゃんにですよ〜(心の声)。

ちなみにこの手術簡単そうに見えますが、とても大変な手術です。なぜなら肛門嚢を一部でも取り残してしまうと分泌物が出続け炎症を起こします。しかも出所が無くなりますので皮膚に穴が開き、断続的に漿液が出続けてしまうようになります。肛門嚢を残さぬように丁寧に分離していかなければなりませんのでとても繊細な手術なのです。肛門嚢の炎症が慢性化しているようでしたら、なるべく早く手術をしましょう。それが成功に導くポイントです。

投稿者: 制作