2014.11.27更新

猫さんの口の中にはいろいろな腫瘍が発生します。今回は猫さんの口腔内にできた線維肉腫の例です。
今回の猫さんは健診ということで当院に初めて来院された時に口の中にある腫瘍を発見しました。飼い主様はとてもショックでどうするか悩んでおられましたが、何かしてあげたいというお気持ちが強く、最終的に手術による切除を選択されました。ちなみに口の中にできる線維肉腫は扁平上皮癌と同様に局所浸潤性が強く骨の中にもぐんぐん浸潤していきます。そして皮膚を突き破って外側にせり出してきたり、口の内側に大きくなっていき食事をとることができなくなったり、腫瘍自体を噛んでしまい出血や感染を起こしたりします。治療は外科切除、放射線治療、抗がん剤などがありますが根治は困難なことがほとんどです。

今回の猫さんの飼い主様は根治は難しいと思うが少しでも長く本人が快適に過ごせるようにしてあげたいとの思いから外科切除を選択されました。

私としてもその思いを尊重しできるだけ局所再発をおさえるべく広範囲の切除を実施いたしました。

これは組織生検時の写真です。粘膜が潰瘍化しています


出血している部位は生検した部位です。腫瘍は口唇粘膜に大きく広がっています


手術時の写真です。鉗子は腫瘍の上側の境界を示しています。


切除する粘膜に支持糸をかけています。


腫瘍から約1㎝のマージンをとり、切開しています。マージンは広ければ広いだけいいのですが顔の小さい猫さんではとれる範囲もかなり制限されますので1センチが限界でした。


切開を進めていきます。この時腫瘍の表面を正常な組織で包まれている状態で切除するようにします。


腫瘍を切除したところです。頬骨も部分的に一塊で切除しています。内側は歯列を超えて上顎骨まで切除しています。


切除後の写真です。肉眼上ですべての腫瘍を切除しました。


鉗子の先には腫大したリンパ節があります。術前にこのリンパ節にがん細胞が存在することがわかっていますのでこれも同時に切除します。


そして再建します。これだけ切除したあとの口腔内の再建は非常に難しく苦労します。皮膚は頸部から皮弁法で転植しました。


術後しばらくは摂食が難しくなることが予想できましたので、胃瘻チューブを設置しました。


切除した腫瘍です。


手術後の写真です。術後数日間は徹底的に疼痛管理をし、猫さんの苦痛をやわらげます。
下あごについているチューブは排液を促すためのものです


入院中の様子です。


手術後1ヶ月くらいの写真です。抜糸も終わり、毛もだいぶ生えそろっています。着ている洋服は胃瘻チューブをおさめておくためのものです。


皮膚もキレイになっています


口の中の様子です。縫合した糸にゴハンがついていますが良好な状態です。この時には自分の口からも食事をしています。


これは手術後2ヶ月くらいの写真です。口の中はほぼきれいな状態です。わずかに残っている糸はしばらくするととれてなくなっていきます。


外貌に関しては毛の走行が違うのでおひげのようになっていますが飼い主様は非常に満足されていました。





その後の様子ですが、半年経った現在もとても元気に過ごしています。
しかし残念ながら再発を起こしてしまいました。口腔内にではなく外側に再発がみられます。半年して再発してしまったことを考えると果たして手術したことが良かったのかと考えてしまいますが、飼い主様は「手術しなければ今頃生きていないと思うし、全然痛みもなく元気そうな様子をみていると手術してよかったと思う」と仰られています。ちなみに今回の写真は猫さんのお顔がそのまま出てしまっていますが、これは飼い主様から「手術前は腫瘍を大きく切除してしまうことで顔がどんな風になってしまうのか不安だった。だから手術した後の写真も含めてホームページに載せて、同じように悩んでいる方に参考にして欲しい」とのお言葉をいただきましたのでそのままにしてあります。

猫の口腔内の扁平上皮癌や線維肉腫は本当に厄介な腫瘍で初期の段階で大きく切除できれば根治の可能性もありますが、進行した状態では手術しても再発することが多くあります。では手術する意味があるのかというとこれはいろいろな考え方があるので答えを出すことはできません。
 私の考えとしてはまず痛みを制御するということがあります。骨が腫瘍によって溶かされる痛みというのは想像を絶すると言われています。例えると骨に釘が刺さっていて、その釘を動かされているときと同じくらいの痛みだそうです。猫さんはポーカーフェイスですのでこの痛みをじっと耐えていると考えます。その痛みから解放できると考えれば手術にも意味があると考えます。
 次に出血や感染を防ぐという意味もあります。口の中の腫瘍が大きくなると腫瘍表面は脆弱になり、食餌中に歯に当たったりして出血を起こします。腫瘍を患っていると血が止まりにくくなることがありますので常に血が滴るようになることもあります。さらに口腔内は細菌が多く、その細菌が自壊した部位に感染を起こすと化膿してしまいます。血や膿が口から溢れてくる・・・自分の口の中がそうなったときのことを想像するだけで倒れてしまいそうになりますね・・・。
 つまり、このような腫瘍は遠隔転移を起こしにくく、局所の状態がどんどん悪化していき、それによって弱っていって最後を迎えるということがほとんどだと思います。このことから局所を制御することにより上記のような状態を回避できる可能性があるならば手術をする意味というのは十分あるのではないかと考えます。


投稿者: 制作