2015.02.06更新

犬の肺は左側が前葉前部、前葉後部、後葉。右側が前葉、中葉、後葉、副葉の全部で7つの葉からできています。肺に見られる病気はたくさんありますが代表的なものとして肺炎、肺腫瘍(肺ガン)、肺膿瘍、肺捻転などです。今回は胸水貯留が原因で肺葉捻転をおこしたワンちゃんの手術です。
 来院した際には努力性呼吸がみられました。レントゲン検査、超音波検査、血液検査などを行い胸水が貯留していることと、右側の肺中葉領域が空気を吸い込めていないことがわかりました。

さらに胸水の性状を調べたり、細胞をみる検査を行いました。その結果感染症や腫瘍性疾患の可能性は低いと考え肺葉捻転を疑いました。胸水が貯留していることで肺葉捻転が起こりやすく、また捻転をおこしていると胸水の原因になることがあります。今回どちらが先に存在したのかは不明でしたが含気していない肺を放っておくと細菌の温床となったり胸水の原因になりますので手術にて肺葉切除を行いました。

胸壁を切開しました


皮下織、筋肉を切開していくと胸膜が見えてきます。胸膜に穴を開けると肺が顔を出します。


肺が見えています。しかしこれは通常の肺の色ではありません。そして赤黒く変色した肺は胸壁や前後の肺葉に癒着していました。


癒着を丁寧に剥離しています。写真の赤黒くなった肺の左右に見えるのが正常な肺の色です。この時点で腫瘍の疑いがある場合には癒着を剥離せず前後の肺葉も同時に切除しなければなりませんが今回は肺葉捻転を疑っていますので丁寧に剥離し機能していない肺葉のみを切除します。


癒着の剥離を終え、肺の基部を結紮しています。


捻転肺葉を切除した後の状態です。きれいに切除することができました。


手術後はしばらく胸水が貯まりますのでカテーテルを設置し閉胸します。開胸手術は強い痛みが伴いますので手術前から手術後2〜3日は疼痛管理を徹底して行います。切除した肺の病理検査結果では腫瘍は検出されませんでした。


この後、このわんちゃんは呼吸状態も落ち着き1週後に退院しました。その後もゆっくりではありますが胸水貯留がみられました。食餌療法や内科治療を継続的に行い1〜2ヶ月ごとに胸水を抜去しています。胸水以外はとても元気で食欲旺盛で病気をしているとは思えないような状態です。
 こういった乳び胸などの原因不明の胸水に対し胸管結紮や心嚢膜切除をしたり、横隔膜に穴を開けて胸水をお腹の方へ誘導したりする手術を行うこともありますがいずれの方法あるいはすべてを行ったとしても胸水を制御できないことがあります。このワンちゃんの飼い主様は現状に大変満足されていますのでしばらくはこのままでいくことになりそうです。


ちなみにこれは上のわんちゃんと同じ右肺の中葉に発生した悪性腫瘍(肺がん)を手術している所です

投稿者: 制作