2015.12.11更新

犬の軟部組織肉腫は間葉組織に由来する悪性腫瘍です。

この腫瘍グループには神経線維肉腫、悪性神経鞘腫、血管周皮腫、粘液肉腫、線維肉腫などがあります。
転移は起こしにくい腫瘍ではありますが、局所浸潤性が強く手術で腫瘍のみを小さく切除してしまうと局所再発を起こすことが多い厄介な腫瘍です。基本的には大きく取れる部位に関しては腫瘍周囲の正常組織を含めて大きく取るのが良いとされています。しかし体幹部の皮下であればいいのですが、四肢にできることも多くその場合、大きく取ることが難しく手術が困難になることもあります。小さいうちに見つけて早めに切除するというのがどんな腫瘍でも重要ですね。

このワンちゃんの後ろ足の付け根にできている4㎝大のシコリも軟部組織肉腫です。手術前に組織生検を行い、どんな腫瘍かを知ることは治療を決定する上で非常に重要です。


なるべく広範囲に毛を刈り、手術に備えます。

軟部組織肉腫のような腫瘍は見た目の判断ですべて取り除いたと思っても細胞レベルで周囲組織に残存することがあり、万が一腫瘍細胞が残った場合、再発する可能性が高くなります。再発までの期間は数年間に渡ることもあり注意が必要です。
今回横方向は腫瘍から2㎝の範囲で腫瘍とともに正常組織を切除しました。


さらに腫瘍の底面に関しては頑丈な筋肉の表面の筋膜をバリアにして切除しました。これを行うには筋肉から薄い筋膜を丁寧に剥がしていきます。筋肉と筋肉の間もなるべく筋膜をつながった状態で剥離していきます。


腫瘍の底面の筋膜を剥離し終わった状態です。キレイに筋肉と筋膜を剥がすのにかなりの時間を要します。そこまでしないと腫瘍を残してしまう可能性があるので丁寧に丁寧に進めます。再発して涙を流すより、大変だけど1回目の手術で治してやろうという気持ちで手術を行っています。


切除した腫瘍です。


切除後に今度は皮膚を縫合します。ご覧のように広範囲に切除した後は縫い合わせるための皮膚が足りないことが多々あります。ただしこれを恐れるがあまり、最初から皮膚が縫える範囲で腫瘍を切除すると腫瘍が残存してしまう可能性が高くなります。


皮膚が足りなくなるのは最初からある程度予測しておりますので再建するための皮膚をこの場合は太ももから持ってくることにしました。そのため予め広範囲に毛を刈っておくことが重要なのです。
太ももの皮膚を切開したところです。


太ももの皮膚を腫瘍を切除した部位へ持っていきます。


そして縫合します。痛々しいですね。それでも再発して再度手術するよりはましですよね。ちなみに再発時の2回目の手術は1回目の手術よりもはるかに複雑で切除範囲も広くなります。浸潤の度合いによっては断脚なども考えなくてはなりません。


切除した腫瘍の底面です。キレイに筋膜が覆っているのがわかります。
病理検査の結果では十分なマージンをもって取りきれているということでした。再発の可能性は極めて低くなったと考えます。


手術後2ヶ月くらいしてからの状態です。太ももの部位は内側からの皮膚なので毛が少なくなっています。それに合わせて全身の毛もカットしていたので、少し傷が目立ってしまっていますがまあ致し方ないと思っていただくしかないです。相手は癌ですから・・・(涙)。







投稿者: 制作

2015.12.11更新

猫の胸腔内に液体が溜まる病気があります。心臓が悪かったり、血液中のタンパクが減ってしまい血管の中に水分を保持できなくなったり、ウイルス性の炎症が起きたり、腫瘍が原因だったりで液体が溜まってしまいます。さらに猫ちゃんでわりとよく見られるのがばい菌が原因で起こるものがあります。化膿性の炎症でいわゆる膿が溜まります。肺の中の化膿しているところが破れたり、猫同士の喧嘩で胸の外からばい菌が入ってきたりして起こります。症状としては発熱、呼吸数の増加、元気が無くなり酷くなると鼻を広げて呼吸したり、咳が出たりすることもあります。病院に来られる際にほとんどの飼い主様は呼吸が荒いということでいらっしゃいます。そして診察室で診察をしてエコーで胸の中をのぞいてみると液体が溜まっている。その液体を針を刺して抜いてみるとこのような濁った液体が採取されます。この液体を顕微鏡で見ると白血球がたくさんで、さらにはばい菌が見えることもあります。



そして次にレントゲン検査をします。そうすると胸の中が真っ白になっています。すでにある程度液体を抜いた状態でこれですから相当苦しかったでしょう。そして肺も白くなっています。この猫さんは家の外に出ることは無く、外傷も無いので、肺の化膿している部位が破れて胸の中に膿が溜ったとかんがえました。




膿胸の時には胸の中にたくさんのばい菌が存在しますのでなるべくその数を減らすために胸の中を洗浄する必要があります。抗生剤の投与だけで中には改善してくれることもあります。しかし洗浄した方が治りが早いのと炎症を長引かせると炎症によって結合織ができ、肺同士や心臓、胸腔内の内壁などと癒着してしまうことで非常に治癒を難しくさせてしまうことがあります。そのような場合には手術で胸を開いて処置することを要します。
 胸の中を洗浄するにはカテーテルを設置する必要があります。毎回針を刺して抜くのは少し可哀想なので当院では積極的にカテーテルを設置します。このとき短時間ではありますが麻酔が必要です。
毛を刈ってマーキングします。


カテーテルを入れるために穴を開けています。

そこにカテーテルを入れていきます。わりと細いカテーテルを入れていますが洗浄にはこれで十分なことがほとんどです。


カテーテルが抜けないように縫い付けます。そして生理食塩水で胸の中を洗浄します。
洗浄は1日に2〜3回行います。


処置後は酸素室の中で過ごします。この猫さんは肺炎もかなり酷いので酸素室でゆっくりしてもらいました。そして点滴と抗生剤で治療を数日おこないます。細菌培養検査の結果がでましたらそれに従って抗生剤の種類を決定します。



次の日のレントゲン写真です。少し良化しています。この後5日程で呼吸状態が安定し、元気で食欲もでましたので自宅での治療に切り替えました。



3週後のレントゲン写真です。きれいに治っていますね。ここまでくると安心です。もう少しだけ内服治療をして治療が終了します。



現在、6ヶ月経過して再発も無く、非常に元気に過ごしています。

猫さんの胸に液体が溜まる病気は結構多いので、呼吸が速いなと思った時は動物病院で診察を受けましょう。あまり長く様子をみてしまうと重症化し、治療が長期化してしまうこともあります。

投稿者: 制作

2015.12.11更新

犬の肛門嚢炎はよく見られる病気です。
肛門嚢とは皆様がよくご存知の肛門腺が溜まる袋です。スカンクのお尻にある匂い袋と同じで肛門の両脇にある肛門腺という分泌腺であります。この肛門嚢の中の分泌物が多く産生されるようになったり、袋の中にばい菌が入って炎症を起こしたり、袋の出口が肛門の近くにあるのですがその部位が詰まってしまうと肛門嚢炎を起こします。酷い場合には破裂して肛門の脇に穴が開き、膿が出てきたりします。

治療は抗生剤、消炎剤などの内服で治療します。その後、分泌物が溜まりすぎないように定期的に絞り出してあげます。これで良くなることがほとんどですが中には慢性的に炎症を起こし続け、繰り返し破裂することもあります。この場合には外科的に肛門嚢を切除することを考えなくてはなりません。肛門嚢炎は痛みがありますので気になってお尻をこすったり、なめ壊したりすることもあります。そして不機嫌になります。お尻の近くを触ろうものなら噛みついてくることもあります。従って内科治療でうまく完治しない場合にはその痛みを取ってあげるという意味でも外科的に切除してすっきりさせてあげた方が良いと考えます。

今回、手術を行ったワンちゃんは約1年間慢性炎症があり、破裂を繰り返していました。いくつかの動物病院で治療を受け、その際に手術をした方がいいと言われたり、しないで抗生剤を長く飲ませた方がいいと言われたりで治療に迷い、約1年経過してしまいました。私の考えでは2、3度破裂を繰り返した場合には外科的に切除した方がよいと考えていますので強く手術をすすめました。飼い主様の了解が得られたので手術にて両側の肛門嚢を切除しました。


まず、肛門嚢の位置をわかりやすくするために肛門嚢内に詰め物をします。



肛門の脇を切開し肛門嚢を分離していきます。すでに何回も破裂しているので肛門嚢は結合織で固くなっていました。やはりこうなる前に手術するべきですね。早めに手術した場合と比較して手術時間は倍以上になります。


やっとのことで分離した肛門嚢です。


肛門嚢を肛門脇にある開口部まで丁寧に分離します。


そして、開口部の部位で結紮して、肛門嚢を切り取ります。


切除した後の状態です。きれいにとれました。


皮膚を縫合した後、反対側も切除します。


手術終了です。手術後は1週間程、抗生剤と痛み止めを飲んでもらいます。


10日後の抜糸した時の状態です。


その後、定期的に経過を診ていきましたが、手術以降はお尻を気にすることも無く、良好に過ごしています。そして飼い主様が驚いていたことは手術後はとても機嫌が良さそうで下半身を触っても噛みついてくることが無くなったということです。やはり痛みというのはワンちゃん達にとってもとても辛いものなのです。「先生、すみませんでした。もっと早くに手術しておけば良かった。」と飼い主様が仰っていましたが、謝るのは私ではなく、ワンちゃんにですよ〜(心の声)。

ちなみにこの手術簡単そうに見えますが、とても大変な手術です。なぜなら肛門嚢を一部でも取り残してしまうと分泌物が出続け炎症を起こします。しかも出所が無くなりますので皮膚に穴が開き、断続的に漿液が出続けてしまうようになります。肛門嚢を残さぬように丁寧に分離していかなければなりませんのでとても繊細な手術なのです。肛門嚢の炎症が慢性化しているようでしたら、なるべく早く手術をしましょう。それが成功に導くポイントです。

投稿者: 制作

2015.12.07更新

犬の甲状腺にできる腫瘍の多くは悪性でその性格も非常に悪いとされています。性格が悪いというのは局所浸潤性が強く転移もしやすいということです。転移している確率はシコリがあるというのがわかって病院につれていった時点で半分くらいが転移していると言われています。大きさによっても転移の可能性が増加します。体積が20㎤より小さければ転移率は14%、20〜100㎤なら74%、それ以上なら100%と言われています・・・20㎤って・・・だいたい一辺が2.7センチのサイコロだから・・・え〜と〜・・・
まあ直径3㎝くらいのシコリより大きければ転移率がぐんと上がるということです。

ほかにも触った時に動かしてみて、グリグリ動くか、がっちりくっついていて動かないかによっても生存期間が変わってきます。動く場合には平均生存期間が3年、動かない場合には1年以下とされています。

なりやすい犬種としては日本ではビーグルが多いですね。ほかにシェルティやゴールデン、ハスキーなども多いようです。

治療の第一選択肢は外科的に甲状腺腫瘍を切除することです。しかし周囲組織への浸潤が強くみられ完全切除が困難であった場合、もしくは食道や気管などを強く巻き込み切除が不可能な場合には放射線治療を行います。さらに転移性の強い癌なので補助的に抗がん剤による全身治療が重要になります。


今回ご紹介する手術は、甲状腺癌で周囲組織への固着がなく、わかりやすいものをおみせします。

仰向けの状態で右側が頭側、左がお尻の方向です。毛を刈ってある喉の脇にポコッとふくれている部位が見えますね。


喉から気管の上をまっすぐ切開して、さらに頸部筋群を切開します。


気管の右側(写真では気管の上方)に腫瘍がみえます。


慎重に甲状腺腫瘍の周囲を確認し周囲組織との位置関係や固着がないかを確認します。この位置には
重要な頸動脈、頸静脈、気管、神経(迷走神経、半回神経)、食道が存在しますのでできるかぎりそれらを保護しながら腫瘍を切除します。


ご覧のように甲状腺はたくさんの血管と直結しています。ホルモンを産生しそれを全身に送る仕事をしているためです。さらに甲状腺の腫瘍が大きくなると血管も太くなり数も増えていきます。
これらの血管を丁寧に結紮し、切り離していきます。ひとたび出血すれば周囲が真っ赤に染まり、手術が難しくなります。


今回の例では周囲の癒着もなく、比較的短時間で切除することができました。


腫瘍を切除したところです。キレイにとることができました。


腫瘍を切除した後に、血管や神経などに重大な損傷が無いかを確認します。


筋肉を縫合します。


皮下組織、皮膚を縫合し手術を終えます。

病理検査の結果は甲状腺癌でした。腫瘍はすべて取りきれているという判断でした。
今回の例は周囲への固着などが無く、短時間で終わらせることができました。しかし進行した例では癒着が酷かったり、血管の中に腫瘍が入り込んでいたりすることが多々あり、手術は難航します。すべての腫瘍に言えることですが小さなうちに見つけて、取るということが良い予後につながるということです。
日頃から首まわりをよく触り、シコリを見つけた際にはすぐに動物病院で診てもらいましょう。

投稿者: 制作