2015.02.23更新

犬の停留精巣です。精巣というか睾丸は正常では陰嚢と言う袋の中に収まります。精子を作る際に涼しい方が都合がいいからです。しかしうまく睾丸が陰嚢まで降りてこない状況を潜在精巣、停留精巣とか停留睾丸といいます。鼠径部にある鼠径管をくぐり抜けたけど陰嚢まで届かなかった場合には皮下組織に停留します。鼠径管さえも超えられなかった場合には腹腔内に停留します。停留睾丸のなにがいけないのかというと将来、精巣腫瘍の発生のリスクが正常犬と比較して9倍となります。ですから睾丸が陰嚢まで降りていない場合には去勢手術を行った方がよいとされています。


体重11キロの柴犬の停留精巣の手術です。片側の精巣がお腹の中に停留しています。指でつまんでいるのは降りてきている方の精巣です。


陰茎の脇を切開します


そしてお腹のなかに隠れている精巣を探します。肉眼で探そうと思うと切開の大きさをかなり大きくしなければなりません。そこで指で精巣を探します。膀胱の背側にある精巣の起点を探しそこから精管を伝って精巣を探り当てます。


取り出した精巣につながる血管や精管を結紮して切除します


切除したところです。結紮した糸はのちに溶けてなくなってしまいます。


お腹を縫って終了です


正常側の精巣も切除します。こちらは陰嚢のやや上をの部位を2㎝ほど切開します



上が停留精巣を手術した術創です。下が通常の去勢手術を行った術創です。皮下陰睾の場合には去勢手術と同じ術創から取り出せることもありますが、通常は鼠径部を切開して行います。

投稿者: 制作

2015.02.14更新

猫の大腿骨骨折は比較的多くみられます。交通事故や落下などが主な原因です。
この猫さんの骨折の原因ははっきりわかりませんがおそらく高いところから落ちたのではないかということでした。大腿骨の骨幹の膝に近いところが折れています。よく見ると骨折部位に骨のかけらがみえますね。単純に二つに割れたのではないのがわかります。治療法は多種多様な方法があります。強いプレートとネジでがっちりとめる方法や髄内ピン+創外固定、髄内ピン+プレートなどなどほかにもたくさん考えられます。猫さんの性格も手術方法を決定する重要な因子です。今回の場合、創外固定には耐えられないと考え髄内ピン+プレートで整復しました。この方法はプレートのみの方法に比べると骨折部位の操作が少なくて済みますし、プレートも薄くて小さいもので可能なので骨粗鬆症にもなりにくいと考えます。
10日後の抜糸が終わるとエリザベスカラーも必要なくなりますので元気なネコさんにはちょうどいいですね。





手術後のレントゲン写真です。髄内ピンを入れ長さを保った状態で小型のプレートとネジを使い固定しました。この方法だと整復時の筋肉の分離が最小限で済みますし骨折部をやたらと触らなくていいので、骨自体が治ろうとする過程をなるべく邪魔しないようにできます。さらに当院では筋肉を縫い合わせる前に骨折部位に多血小板血漿を注入します。


多血小板血漿(PRP)とは血小板の中に自己治癒能力を高める因子がたくさんあることを利用する方法です。患者さん(この場合は猫さん)から血液を採血し、血小板をたくさん集めてそれを傷害を受けた部位に注入します。これにより治癒を促進させようという方法です。なんといっても自分の血小板なので副作用が無いと言うのがうれしいですね。人の医療では歯医者さんでインプラントを入れる際に土台部分の骨量を増やす目的で使われていたり、皮膚のシワや古傷を目立たなくさせる美容目的でも使われているようです。

このジェル状の血液の中に血小板が多く含まれています


手術後5ヶ月時の状態です。キレイに骨がついていますので髄内ピンを抜去します。


髄内ピンを抜いた後です。残ったプレートは取ってもいいのですが大腿骨の周りは筋肉量が多く骨に到達するのに筋肉間の分離を結構していかなければならないので問題が無ければそのままにしておきます。この程度の小さなプレートであれば骨粗鬆症になることはないと考えます。

投稿者: 制作

2015.02.14更新

犬の肝臓の原発腫瘍のなかで一番多いのが肝細胞癌です。肝臓に大きなシコリが1つあるいは2つみられる場合にはまず肝細胞癌を考えなければなりません。他の肝臓に発生する腫瘍(胆管癌、血管肉腫、リンパ腫、転移性腫瘍など)でシコリが1つで5センチを超える大きさになることはまれです。言い換えれば肝細胞癌以外の悪性度の高い腫瘍は1つが5センチを超えて大きくなる前に3つ4つ・・・と数が増えていくと言うことです。さらにリンパ節や他の臓器にも転移がみられることもあります。
 それでは1つで5センチ超えたら全部が肝細胞癌かというとそうではなく、肝細胞腫、結節性過形成などの良性病変、さらにはただの血腫なんてこともあります。これらを手術する前に確実に区別する方法は確立されておりません。超音波造影剤を使った検査や造影CTなどで区別する方法が研究されており近い将来で手術前に確定できる日が来るかもしれませんが今のところは手術で切除してみないとはっきりはわからないということです。
 では肝細胞種や結節性過形成などは放っておいてもいいのかというと難しいところです。それが5センチを超えてさらに増大していくと破裂し出血を起こす可能性が出てきます。さらに他の臓器を圧迫し嘔吐や下痢、食欲不振などの臨床症状を呈していくことがあります。こういったことを考えるとあまり大きくなるようなら肝細胞腫であろうが結節性過形成であろうが手術を積極的に考えたほうがいいと考えます。
 ただし肝臓はご存知のように脆いです。しかも大きな血管がたくさん入り込んでおり、一歩間違えば大出血を起こし最悪の事態になることもあります。手術の際には慎重な操作が必要であり、さらに不測の事態に対し備えが必要です。もちろん経験や技術も必要になります。


ご紹介するワンちゃんは半年前に3センチ大のシコリが肝臓の内側右葉にみつかり、その後一ヶ月ごとの健診をしておりました。その後シコリは徐々に増大し5センチ大になりましたので肝細胞癌を疑い手術にて切除しました。

写真は開腹したところですが、腫瘍が横隔膜に癒着していました。


肝臓の内側右葉の基部に腫瘍がみえます。写真の指先で示しています。その下に見える白いものは胆嚢です。胆嚢は腫瘍に接していたので同時に切除しました。胆嚢を切除してしまっても日常生活に影響はほとんどありません。


肝臓の基部、つまり根元の深い部分に腫瘍が存在しておりましたので視野を広げるために一部胸骨を切開し、さらに横隔膜も切開しています。


内側右葉に流れ込む血管など(門脈、肝動脈、肝管)をはじめに結紮し、次に内側右葉から流れ出る静脈系を結紮していきます。写真は後大静脈と副中間静脈との分岐部を分離し結紮糸を通しているところです。


次に、中肝静脈を後大静脈との分岐部で分離します。細心の注意を払い血管を丁寧に分離していきます。この部位での作業で大出血を起こす可能性がありますので神経を研ぎすまして行います。写真は中肝静脈の分離が終わり剥離鉗子を中肝静脈と後大静脈の間に通したところです。腫瘍が肝臓の基部に迫っていることがわかります。


中肝静脈を結紮した後に肝臓副葉との間を切離し、そして内側右葉を切除しました。


切除した腫瘍です。病理検査の結果は肝細胞癌でした。切除辺縁に腫瘍は認められず、腫瘍は取りきれているという判断でした。腫瘍に切れ目が入っているのはホルマリンが浸透しやすくするためのものです。


ちなみに肝細胞癌が肝臓にあっても特になんの症状も示さないことがあります。それゆえ発見が遅くなり、見つかった時には腫瘍が取り切れないほど大きくなっていたり、主要な血管を巻き込んでしまい完全切除が難しくなってしまっていたりします。定期的に健康診断を受けることが重要です。
 犬の肝細胞癌は手術で切除した場合の生存期間の中央値が1460日以上であったのに対し、手術しなかった場合は生存期間の中央値が270日でしたという報告があります。肝細胞癌が他の臓器に転移することはまれなことです。ゆえに腫瘍をしっかり取りきれれば予後は良好です。肝臓に癌ができたからもうダメだとあきらめるのはとってももったいないことなのです。人間の肝臓がんは肝炎ウイルス感染を背景に肝硬変や肝臓がんに発展し予後も様々ですが、犬の肝細胞癌はしっかりとれれば寿命を全うできる可能性が高いのです。

投稿者: 制作

2015.02.06更新

犬の肺は左側が前葉前部、前葉後部、後葉。右側が前葉、中葉、後葉、副葉の全部で7つの葉からできています。肺に見られる病気はたくさんありますが代表的なものとして肺炎、肺腫瘍(肺ガン)、肺膿瘍、肺捻転などです。今回は胸水貯留が原因で肺葉捻転をおこしたワンちゃんの手術です。
 来院した際には努力性呼吸がみられました。レントゲン検査、超音波検査、血液検査などを行い胸水が貯留していることと、右側の肺中葉領域が空気を吸い込めていないことがわかりました。

さらに胸水の性状を調べたり、細胞をみる検査を行いました。その結果感染症や腫瘍性疾患の可能性は低いと考え肺葉捻転を疑いました。胸水が貯留していることで肺葉捻転が起こりやすく、また捻転をおこしていると胸水の原因になることがあります。今回どちらが先に存在したのかは不明でしたが含気していない肺を放っておくと細菌の温床となったり胸水の原因になりますので手術にて肺葉切除を行いました。

胸壁を切開しました


皮下織、筋肉を切開していくと胸膜が見えてきます。胸膜に穴を開けると肺が顔を出します。


肺が見えています。しかしこれは通常の肺の色ではありません。そして赤黒く変色した肺は胸壁や前後の肺葉に癒着していました。


癒着を丁寧に剥離しています。写真の赤黒くなった肺の左右に見えるのが正常な肺の色です。この時点で腫瘍の疑いがある場合には癒着を剥離せず前後の肺葉も同時に切除しなければなりませんが今回は肺葉捻転を疑っていますので丁寧に剥離し機能していない肺葉のみを切除します。


癒着の剥離を終え、肺の基部を結紮しています。


捻転肺葉を切除した後の状態です。きれいに切除することができました。


手術後はしばらく胸水が貯まりますのでカテーテルを設置し閉胸します。開胸手術は強い痛みが伴いますので手術前から手術後2〜3日は疼痛管理を徹底して行います。切除した肺の病理検査結果では腫瘍は検出されませんでした。


この後、このわんちゃんは呼吸状態も落ち着き1週後に退院しました。その後もゆっくりではありますが胸水貯留がみられました。食餌療法や内科治療を継続的に行い1〜2ヶ月ごとに胸水を抜去しています。胸水以外はとても元気で食欲旺盛で病気をしているとは思えないような状態です。
 こういった乳び胸などの原因不明の胸水に対し胸管結紮や心嚢膜切除をしたり、横隔膜に穴を開けて胸水をお腹の方へ誘導したりする手術を行うこともありますがいずれの方法あるいはすべてを行ったとしても胸水を制御できないことがあります。このワンちゃんの飼い主様は現状に大変満足されていますのでしばらくはこのままでいくことになりそうです。


ちなみにこれは上のわんちゃんと同じ右肺の中葉に発生した悪性腫瘍(肺がん)を手術している所です

投稿者: 制作