2014.07.14更新

「うちのこまだ1歳なのに腫瘍ができた」ということで慌てて来院されることがたまにあります。
そういった若いワンちゃんの皮膚に赤くてドーム状にできるしこりは皮膚組織球腫という腫瘍であることが多いですね。
皮膚組織球腫とは皮膚の中にあるランゲルハンス細胞という細胞が由来の腫瘍です。急激に増大し表面は潰瘍化し脱毛することがあります。
 ある程度時間が経つと自然に退縮してしまうこともありますが、どんどん大きくなってしまうものもあります。急速に大きくなっていくものや自然退縮しないものは外科的に切除することを考慮します。

この写真の例は組織球種が急速増大し4センチ大になってしまった例です。表面はくずれ、潰瘍化しています。こういった場合には手術にて切除が望まれます。


基本的に良性腫瘍ですのでマージンは最小限で切除します





皮膚組織球種に関しては良性腫瘍ですので、切除してしまえばあとは特に問題ありません。
しかし組織球種が皮膚に多発する皮膚組織球症や内蔵など全身に多発する全身性組織球症という病気もありますので注意が必要です。さらに組織球系の悪性腫瘍は予後がかなり悪いものがありますので要注意です。


西調布犬猫クリニック

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2014.07.11更新

以前、軟部組織肉腫の例をお見せしましたが、他にも何例かお見せしようと思います。

1例目は他院にて手術した後、6ヶ月後に再発してきた例です。軟部組織肉腫の特徴は転移性は低いのですが、局所浸潤性が強く、手術後の再発が多い腫瘍です。
しかし、再発をなるべく起こさないように1回目の手術で最大限可能な限り取り除くことが重要です。

前肢のこの位置にある腫瘍は非常に厄介です。理由は皮膚が足りないからです。体幹部や上腕、太もも辺りでは皮膚が豊富にあり皮弁を使うことで切除部位を覆うことはできるのですが、肘より下や膝より下は皮弁法が困難で腫瘍の切除後の再建に苦労することが多々あります。
写真は、まん中の線は前回の手術痕でその上に腫瘤があります。

腫瘍の底部は必ず筋膜(筋肉を覆っている膜)をバリアとして切除します。このとき皮下の脂肪層の部位で切除すると腫瘍を取り残してしまう可能性が高くなります

縫合時に皮膚が寄りませんので、皮膚にスリット状に穴を開けて縫合します。

手術後1ヶ月の状態です。毛は少ないですが見た目にもそんなに目立たなくなります。まあ見た目よりも腫瘍を取り切ることが最大の目的ですので致し方ないところです。


次は体幹部の軟部組織肉腫の例です。胸部の皮下に直径6センチ大の腫瘍が存在していました。

腫瘍底部の筋膜を慎重に剥離していき切除します。底部への浸潤が強ければ筋肉ごと切除することもあります。


手術後1ヶ月の状態です。体幹部であれば皮弁法により再建します。


次の例は右の脇の下に存在する軟部組織肉腫の例です。指でつまんでいるところに腫瘍が存在しています。組織生検した後1糸縫合しています。


腫瘍は底部の筋肉と強く固着していました。腫瘍の周囲を丁寧に剥離していきます


筋肉にはり付いています


必要であれば、筋肉ごと切除します。筋肉を切開しているところです


腫瘍周囲の正常な組織で可能な限り包み込んだ状態で切除します。決して腫瘍本体が見える状態にはしません。見えた時点でそれはつまり十分なマージンをとった切除ができていないということです。




電気メスの先で示しているのがリンパ節です。リンパ節も同時に切除し転移の有無を調べます。


切除後の写真です。出血がないかを確認し、あれば止血します。


皮下織を縫合し閉創します。




軟部組織肉腫はその浸潤性により手術後の局所再発が起こりやすいとされています。しかし最大限再発を起こさないように1回目の手術で取り切ることが重要です。もし腫瘍だけをくりぬくように切除し再発した場合には、1回目の手術よりも浸潤度は増しており、取り切るには前肢・後肢に存在した場合は断脚を考慮したり、体幹部の場合はより深層の筋肉を広範囲に切除しなければなりません。つまり言いたいことは1回目の手術で腫瘍をすべて取り切るということを一番に考え、見た目が痛々しく見えるかもしれませんが、なるべく多くの腫瘍周辺の正常組織で腫瘍を覆いながら切除するということです。小さな傷で手術するということは見た目はいいかもしれませんが後々大変なことになるかもしれないということを考慮しておくことが大切ですね。

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投稿者: 制作

2014.07.10更新

今回は当院での痛みの管理についてお話ししますsign01

 わたくし、高校時代はラグビー部に所属しておりまして、試合の最中にあちこちスパイクで踏まれたり、頭打ったり、どこかしらを切ったりと怪我ばかりしておりました。でも試合中はアドレナリンがバンバンでているのであまり痛みを感じないんですよねcoldsweats01 そうかと思えば帰って寝ようとしても痛みで寝れないなんてことも多々ありました。

 最近では少ないですが獣医になったばかりの時はあちこち噛まれたり、引っ掻かれたりで医者のお世話になることもありました。年を取ると痛みに弱くなるのか、病院で深く噛まれた傷を綿棒でグリグリ消毒されると痛さのあまり先生にもうちょっとやさしくお願いしますと泣きついたりするようになりました。

 まあ私のことは置いといてと・・・動物の医療において、痛みについてまじめに考えられ始めたのは20年ぐらい前からだそうで、それまでは「動物は痛みを感じにくい」とか、「痛みに強い」とか「どれだけ痛みを感じているのか科学的に測ることができないので動物の痛みについて議論するのは無意味だ」等の理由で無視されてきたそうです。

 でも実際は外敵から身を守るために弱みを見せない(痛みを隠す)という習性があり、我慢しているだけなのです。

 我慢できるなら我慢させとけばいいじゃんと思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、痛みが続くとからだによくないことがたくさんあるんです。

1、まず痛みに対する不安感は痛みを増強させますsign01
2、肺活量が減ったり、肺が膨らみにくくなって呼吸によるガス交換がうまくできなくなりますsign01
3、交感神経が緊張してドキドキしたり、血圧が上がったりして心臓への負荷が増えますsign01
4、体内のステロイドの分泌が増え、これもまた心拍数up、血圧upで心臓が・・・wobbly
5、タンパク質分解が増加、体内異化が亢進して痩せていったり、傷の治りが悪かったりしますsign01
6、血液が固まりやすくなり血栓ができやすくなり、その血栓が細い血管に詰まりやすくなりますsign01
7、食欲低下、元気もなく、動かなくなると回復は遅れ、感染症を起こしやすくなりますsign01

こんなにたくさん悪いことが起こるんです。ほんとかよと思われる方はもし手術を受ける機会がありましたら、お医者さんに痛み止めなしでお願いしますと言ってみてください・・・冗談はさておき、痛みなんか気合いで乗り切れって野戦病院じゃないんだから手術したあとくらいはゆっくり寝かせて欲しいですよねappleワンちゃんネコちゃんだって同じです。痛みはしっかりとってあげなきゃダメなんですthink


 制御されない痛みは健康を害し、疼痛が重度であれば死を招くことさえあります。例えば戦争中は拷問による痛みで亡くなってしまったり、精神を病んだりした方が多くいらっしゃったのですweep
 現在は痛みを緩和しないまま動物たちを生活させてしまうことは、私たち人間が犯す可能性のある最も残酷な行為のひとつとして認識されてきています・・・。しかし正直まだまだその認識は薄いと言わざるを得ませんweep獣医さんのなかでも「その手術にそんな鎮痛薬使う必要あるの?」とか、「痛みとったら動いちゃうから痛み止めなんか使わないよ」、「使う薬は少ない方がいい」、「麻酔で寝てるんだから痛くないよ」なんて声もあったり、鎮痛薬は使っているけど、その鎮痛薬がやっている手術に対し効果が足りないものだったりなんてことも見受けられますpenguin

 私自身、痛みに弱いということもあり当院での疼痛管理に関しては厳密に妥協無く行っておりますclover。疼痛管理は手間が格段に増えます。消耗品も増えます。それでも痛みに耐え忍んでいるワンちゃんネコちゃんはみたくありませんsign03。手術を成功させるには適切な疼痛管理が非常に大事なのです。よく「歯石とるのに麻酔かけたら死んじゃった」なんてことを聞きますが、本来、麻酔の合併症で亡くなる確率は0.1%です。適切に行えば、麻酔で死んじゃうなんてことはそんなに起こるはずが無いのです・・・。麻酔の前に麻酔がかけられる体力があるのかどうかを評価し、バランス麻酔(鎮静、鎮痛、 筋弛緩の3要素が適切に達成されるように、鎮静薬,鎮痛薬,筋弛緩薬を用いて バランスよく調整する方法)とマルチモーダル鎮痛(作用機序の異なる鎮痛薬を併用し相加・相乗的な鎮痛効果を得る方法)の概念に基づいた麻酔計画を立て実行すれば麻酔よって亡くなるということは最小限にできるはずなんですcherry
 
当院で使用している鎮痛薬の仲間達ですshine私にとっては本当に頼もしい存在ですfuji
このお薬達を駆使して痛みを最小限に抑える努力をしています。

「面倒くさいことを面倒くさがらずにやるsign03」こういうことを当たり前にできる獣医が良い獣医だと思いますbud

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2014.07.10更新

犬の小腸にできる腫瘍と言うと主なもので腺癌、平滑筋肉腫、リンパ腫などがあります。症状としては嘔吐、下痢、食欲不振などがみられます。
 小腸の腫瘍において、手術時に転移があるかないかで生存期間が大きくことなります。転移があった場合の生存期間は短くなります。小腸の中で発生部位として空腸が一番多く(小腸の中で空腸が断トツ長いので)、次に十二指腸、回腸となります。

今回の例は十二指腸にできた癌の例です。小腸の中で十二指腸の手術が一番厄介です。理由は十二指腸には胆嚢からつながる総胆管が接続していたり、膵臓からつながる膵管が接続していたり、触れると炎症を起こしやすい膵臓自体と隣り合っていたり、深い位置を走行していたりと考えるだけで頭が痛くなります。両手の指で持っているのが十二指腸で真ん中の部位が癌に侵されています。


腫瘍部分をガーゼで覆いながら、血管を止血し、分離していきます。ピンセットのしたに見えるのが膵臓です。膵臓を乱暴に扱うと術後に膵炎を起こしますので丁寧に行います。


腸間膜を分離したあとに切除する部位を腸鉗子で鉗圧します。総胆管や膵管の十二指腸への開口部を傷つけないように切除範囲を決めます。


腫瘍部位を切除したところです。空腸や回腸に比べ十二指腸の腫瘍はマージンを確保するのが難しい場所です。


腸管同士を縫い合わせているところです。


縫合を終えたところです


その後、転移が無いかどうかを調べるために近くのリンパ節を取ります。そして他の臓器に転移を疑う所見が無いかどうかを調べ、無ければ閉腹します。

切除した部位です。腸の内側から漿膜(腸の一番外側の膜)面にも腫瘍が浸潤してきているのがわかります。


内腔面をみると腫瘍部分が潰瘍を起こしています。粘膜が肥厚しているのもわかります。


病理検査では腺癌とのことでした。リンパ節への転移はみとめられませんでした。しかし漿膜を超えて外方に腫瘍がせり出しているとのことで腹腔内播種の可能性があったためその後、抗がん剤による治療を行いました。今現在は手術前より太り、元気に駆け回っています。

小腸の腺癌は転移がなければ、比較的長い生存期間が得られることが期待できます。ゆえに早期に発見し、早期に治療することが非常に重要です。




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2014.07.07更新

目の角膜を覆っている涙が蒸発しにくくなるように(要は、目が乾きにくくなるよう)に眼の表面に対し油を分泌する分泌腺が瞼にあります。マイボーム腺といいます。マイボーム腺腫とはそれが腫瘍化したものです。小さな時は特に悪さはしませんが、大きくなると角膜を傷つけたり、表面が自壊し、出血や感染を起こします。人でも眼にゴミが入るとゴロゴロしてとても不愉快ですよね。マイボーム腺腫が角膜を擦るようになるとかなり不快感を感じるようになり床にこすりつけることがあります。


この13歳のワンちゃんは眼瞼の腫瘤が1年前から徐々に大きくなってきました。高齢という理由でこれまで治療はされていませんでした。当院に来院されたときにはしょっちゅう表面が自壊し出血を繰り返しているということでした。

確かに高齢ではありますが、血が眼の中に入りそれを気にして擦ったり、目やにが多かったりと生活の質が落ちていました。このままではいずれ角膜表面にびらんや潰瘍を起こす可能性ありますので手術にて切除することにしました。

上眼瞼と下眼瞼にひとつづつ大きなマイボーム腺腫がみられます。これは麻酔がすでにかかっているところです。眼のまわりは毛を刈っております。


下から見たところです


瞼を開いたところです。かなり深くまで腫瘍が入り込んでいます。


取り残すと再発する可能性がありますので、慎重に切開します。


切除したところです。


瞼の内側の粘膜を溶ける糸で縫い合わせます。


皮膚を縫合します。このとき瞼の端がズレないように丁寧に縫い合わせます。


同様に下眼瞼の腫瘤を切除します。手術部位周囲が赤くなっているのは局所麻酔を注入した際の内出血です。


切除した腫瘤です


手術後6ヶ月の外観です。向かって右側が手術をした方です。上眼瞼の腫瘤がかなり大きかったためやや反対側に比べ目が小さく見えます。




現在は、眼を気にすることは無く、快適に生活しているとのことです。飼い主様も大変満足されていました。



眼瞼の腫瘍は良性のマイボーム腺腫ばかりではありませんので注意が必要です。
このワンちゃんは眼瞼炎として治療したが反応が悪く組織生検を行ったところ肥満細胞腫グレード3という非常に悪性度の高い腫瘍であった例です。眼球摘出や骨を含め広範囲に切除しました。










眼瞼のマイボーム腺腫は小さければ、問題になることはありません。しかし大きくなると非常に厄介な腫瘍です。ある程度大きくなる場合には治療を考えた方がいいでしょう。また良性のマイボーム腺腫ではなく、他の悪性腫瘍の可能性もありますので注意が必要です。安易に経過を見ずに動物病院で診察を受けましょう。
 

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