2015.06.04更新

断脚手術とはその名の通り、足を切るという手術です。足を切るなんて、そんな残酷なことをなんでするの?
と考える方もいらっしゃるかと思います。なぜ断脚するか?それは「痛みの苦痛からの解放」をするために止む無く行うのです。
犬猫の断脚手術を行う際の主な理由は悪性腫瘍の治療のためです。中でも最も多いのは犬の骨肉腫というガンに対するものです。腕や足にできる骨肉腫は非常に悪性度が高く、診断時点でほぼ転移していると考えられています(目に見えていなくとも、がん細胞はすでに全身に飛び散っている可能性が高い)。なぜなら骨肉腫は骨にできます。骨の中には骨髄が存在しそこには大量の血液が流れています。この血流に乗ってがん細胞が全身に飛び散っているのです。これゆえ骨肉腫は断脚してもまず治すことはことは困難なのです。
 治せないのになぜ断脚するのか?それは先ほども書きました通り、痛みからの解放です。そのほかに腫瘍のおおもとを無くす(減容積)という役割もありますが、どちらかというと前者の意味合いが大きいと考えます。
 骨が腫瘍によって喰い溶かされるときはどのくらい痛いのでしょうか?これは体験したものにしかわかりませんが、1つの例えでいうと骨に釘を刺してそれをグリグリと動かされているような痛みだそうです。さらに骨溶解が進むと病的骨折を起こします。つまり骨がスカスカになりボッキリ折れてしまいます。これにより痛みはさらに大きくなります。動くたびに激痛が走るでしょうし、横になっていても常に酷い痛みに魘されるでしょう。この痛みを抱えながら生きることを想像してみてください。
 これゆえ止む無く断脚するのです。いままでたくさんの骨肉腫の痛みをを抱え、弱っていた犬達を見てきました。そんな彼らが断脚手術後、見違えるほど元気になっていきました。骨肉腫の性質上そんなに長く生きることができませんが、最後を迎えるまで激しい痛みから解放され安らかに逝くことを願い、断脚するのです。


この犬の例は後肢の大腿骨の膝に近いところにできた骨肉腫の例です。

はじめは何となくびっこをひくから始まり、徐々に跛行の程度が酷くなり各種検査により骨肉腫と診断されました。





まず、鼠径部の大きな動脈を結紮離断します。これにより足に流れる血液の量を減らします。




次に、大きな静脈を結紮します。


次に股関節にアプローチするために、筋肉を切断していきます。




丁寧に筋肉を分断していき、股関節に到達します。


丸くみえるのが大腿骨頭です。股関節を離断します。


股関節を離断した後、外側の筋肉を離断していきます。その際に太い神経には痛みを軽減するために局所麻酔を注射します。太い血管を丁寧に確実に結紮していきます。特に太い静脈は空気を吸い込み空気塞栓症の原因になりますので気をつけます。



後肢の切断が終了したところです。

切断した足です。


切断後は周囲の筋肉や脂肪を集めて縫合し骨盤を座布団でくるむようにします。そうするとその部位を下にして横になった時も骨が床に直接当たらなくなり快適になります。入っている管は疼痛緩和用のチューブです。数時間ごとに鎮痛剤を注入します。


手術が終わったところです。この後は48時間は痛みの管理を徹底的に行い、快適に過ごせるよう最大限努力します。約1週間で退院となります。歩けるまでの時間はかなり個体差がありますが後肢の場合には割とすぐに歩けるようになります。前肢の場合には手術までの期間によってだいぶ変わってきます。痛くてすでに患肢をついていないような場合にはすでに片足で歩くことに慣れているので手術後も早くから歩けるようになります。まで患肢をしっかり使っていた場合には歩けるまでに少し時間がかかります。その間は歩行を補助しトレーニングをしていきます。


術後5日目の小走りしているところです。



術後は2週間程度で抜糸を行います。その後は可能であれば抗がん剤による治療を行います。手術のみの中央生存期間は約80日とされています。抗がん剤を術後行うことで中央生存期間が半年から1年になると報告されています。

投稿者: 制作