2015.03.05更新

犬の会陰ヘルニアは中高齢の未去勢雄によく見られます。直腸のまわりにある筋肉群が萎縮してしまい、筋肉の間からお腹の中の器官や組織がでてきてしまうことにより起こります。見た目としては肛門のすぐ横の部分がボワンと膨らみます。ワンワン吠えたりするとその膨らみがさらに飛び出してくるように膨らみます。会陰ヘルニアになると何が悪いのかといいますと、直腸を支える筋肉が萎縮してしまいますので直腸が蛇行してしまったり、一部分が拡張してしまい、その部分にウンチが入り込んでしまいます。そうすると排便が思うようにできなくなります。さらに排便時に息むようになり、そのことでお腹の中の器官や組織(多くは骨盤腔内の脂肪、前立腺、膀胱、小腸)が萎縮した筋肉間からお尻の脇の皮下に脱出してしまいます。重度の場合には排尿がしづらくなることもあります。ただし一番の問題はやはり排便困難です。食餌療法や内科療法でなんとか便がでるようにし続けることも可能な場合もありますが、基本的には手術による治療が必要です。
 手術の方法は様々な方法があります。開いた筋肉の間を縫い縮める方法が古くから行われていますがこれだけでは再発することが非常に多いため、最近ではポリエチレンメッシュなどの人工材料を使用しヘルニア部分を塞ぐ方法も多く行われています。しかし人工材料に対し、炎症反応を起こしたり、感染症を起こしやすいなどのデメリットもあります。そこで内閉鎖筋や浅殿筋・半腱様筋といった筋肉や睾丸を包んでいる総鞘膜などの生体内組織でヘルニア部位を塞ぐ方法も行われています。さらに前立腺や膀胱、結腸を腹壁に固定することによりヘルニア孔からお腹の器官や組織が脱出しないようにする方法を併用することもあります。

下の写真はお尻のヘルニア部位を手術する前に開腹し、膀胱を手に持ち引っ張っています。そして膀胱、精管、前立腺を腹壁に縫合固定し、さらに結腸も縫合固定します。これによりこういった臓器がヘルニア孔から脱出するのを防ぎます。

精管を縫合固定しているところです。ちなみに会陰ヘルニアを治療する際には去勢手術は必須です。その理由は直腸周囲の筋肉の萎縮が男性ホルモンに影響を受けているからです。ですから去勢手術をしたあとに不要になった精管を腹壁に固定します。

続いて、結腸を縫合固定しているところです。これが終わったら腹壁を閉じて仰向けからうつ伏せに体位を変えます。そしてお尻の横のヘルニア部位を手術します。


お尻の横をたてに切開し、去勢後、不要になった総鞘膜をヘルニア部分に引き込んできます。この総鞘膜と肛門括約筋や肛門挙筋、尾骨筋、浅殿筋、仙結節靭帯、内閉鎖筋などと縫合します。


縫合し終えたところです。総鞘膜は非常に丈夫な膜でしかも血行は保たれていますので強固な固定が可能です。


皮膚の縫合を終えたところです。手術後は数日間しぶりが続きますが、時間の経過とともに排便の状況も改善していきます。



会陰ヘルニアは割と高齢で患うことが多く、その場合飼い主様は手術を躊躇してしまうことがあります。その場合には内科治療を行い、排便困難が見られる場合には指で便をかき出したりする処置が必要なこともあります。しかしこの処置は非常に危険を伴います。なぜなら拡張した直腸は非常に薄く脆くなっており、処置中に穿孔してしまう可能性があります。穿孔した場合には直腸内の細菌が腹腔内に侵入していき、その後は骨盤腔内膿瘍、腹膜炎、敗血症などにより命にかかわる事態になりかねません・・・。
 それゆえ、排便困難が重度の場合には外科的な治療を強くおすすめします。会陰ヘルニアが見られた場合には安易に様子を見ずに動物病院に相談しましょう。

西調布犬猫クリニック

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