2014.12.20更新

胸腔内にできる腫瘍はたくさんの種類があります。肺にできる肺がんや心臓にできる血管肉腫やケモデクトーマ、さらに前胸部にできる胸腺腫やリンパ腫や異所性甲状腺癌、胸壁や胸膜にできる悪性中皮腫などなどです。
腫瘍の種類やできる場所によって様々な症状を示します。その代表的なものが胸水貯留です。腫瘍があることで起こる炎症により滲出液や変性漏出液が貯留したり、腫瘍がリンパ管を圧迫して乳びと呼ばれる乳白色の液体が貯留したりします。

今回、ご紹介するワンちゃんは数日前に突然元気がなくなり、その二日後には呼吸困難となり動物病院に駆け込んだとのことです。胸水が貯留しておりそれを抜くことで一命は取り留めました。その胸水の原因を精査することと治療を希望され当院に転院されました。

レントゲン写真では胸水の貯留が認められ、さらに前胸部を占拠しているX線不透過性の物体があるということがわかりました。そのほかに超音波検査や細胞診検査などを行いましたが、前胸部の占拠物がなんであるか、はっきりとはわかりませんでした。本来であればこの時点でCT検査を行うことでさらなる診断の手がかりを得られる可能性があります。しかし胸水の貯まるスピードが非常に早いのに加え、前院で麻酔下で設置した胸腔チューブがすでに詰まっており、まったく胸水が抜けない状態でした。局所麻酔下での胸腔穿刺では胸水内のフィブリンの塊がすぐに針先詰まってしまいほんの一部しか抜けないという状態でしたので早い段階で開胸手術を行い、病変がなんであるのかを確認し、可能であれば治療を行い、同時に胸腔チューブを再設置することを決めました。この時点では胸腺腫、肺腫瘍、肺捻転などを想定して手術に入りました。

手術前のレントゲン写真です




開胸したところです。肺が見えています


前胸部を見ると20㎝大の腫瘤が確認できました。あまりに巨大であるため最大限肋骨の間を切開し周囲との癒着を結紮離断していきました。腫瘤周囲全体の癒着を処理するのにかなり苦労しましたがなんとか切除することができました。


切除した腫瘍です。非常に固くて巨大な腫瘍でした。


切除したあとの前胸部の様子です。薄い膜のむこうに反対側の肺が見えます


無事に腫瘍切除を終え閉胸しているところです


胸壁を縫合しているところです


手術終了時の写真です。巨大な腫瘍を取り出すため切開がかなり大きくなっています。そして胸水を抜くためのカテーテルを設置しました。




この非常に大きな腫瘍がリンパ管等を圧迫し、胸水が貯留していたと考えます


手術後3日目のレントゲン写真です。手術後は思ったよりも胸水貯留が軽減しませんでした。術後7日あたりまでは毎日700mlほど胸水を抜き続けました。




その後低脂肪食や利尿剤などで治療し、術後1ヶ月の時点では胸水はほとんど見られず、良好に経過しました。現在徐々に利尿剤を減量しておりますが、胸水の貯留は認められません。とても元気に走り回っており、飼い主様も若い時に戻ったみたいだと喜んでおられました。


病理検査ではThymofibrolipomaという非常に珍しいタイプの腫瘍でした。腫瘍は取りきれているので予後は良好と考えられるが稀な病変のため慎重な経過観察が必要とのことでした。
8歳ですからまだまだ頑張れそうですね。





投稿者: 制作