2013.10.27更新

膝蓋骨内方脱臼手術例をお見せします
手術の術式は様々な方法があります。どの方法がいいかは術者の好みや技量、設備などにより左右されますが一番重要なのは手術中の判断だと考えます。この患者の膝にはどのような方法がベストかを常に考えながら手術を進めます。
膝蓋骨脱臼の手術のおおまかな流れは
1、まず膝蓋骨がレールから脱線するのを防ぐためにすべるレールを深くする
2、スネの骨の内旋がある場合には程度により脛骨粗面の転植をします
3、ひざの内側に脱臼を繰り返しいるうちにのびてしまった外側の筋膜を切除もしくは鱗状に縫縮する
これらにプラスしてそれぞれの状況に応じてその他の手技を加えていきます


プードルに行った手術の写真です。程度としてはグレード2でした。これは膝蓋骨がすべるレールにあたる滑車溝を深くするために切れ目を入れています。


切れ目に沿って軟骨をブロック状に掘り出しています


掘り出したところです。


掘り出したブロック状の軟骨です。このあとブロックのあった部位を掘り下げそこにブロック状の軟骨をもどします。これにより軟骨を残した状態で溝を深くすることができます。軟骨を残さずに軟骨自体を削り取り深くする方法もあります。小型犬であれば問題ないとされています。


これはヨークシャーテリアの膝蓋骨内方脱臼の手術です。この例もグレード2です。同じようにブロックを切り出しています。
 

この例では完全にブロックを切り離さずにブロックの下側を削り深くしています。この方法だと切り離していない部分を深くすることができませんので膝の上の方で膝蓋骨が脱臼してしまう場合には注意が必要です。

もどしたところです。キレイに軟骨が温存でき溝も深くなっています。

関節包を縫合したところです。関節包は強度があまりありませんので縫縮する必要はありません。


外側の筋膜を鱗状に被せ膝蓋骨を覆うように縫合し外側にテンションがかかるように縫縮します。



これはパピヨンの例で前十字靭帯断裂を併発しています。膝蓋骨脱臼はグレード3です。膝蓋骨が脱臼を繰り返し軟骨が削れているのがわかります。


ピンセットでつまんでいるのが切れた前十字靭帯です。膝蓋骨脱臼があると膝が不安定な状態が続きますのでこのように靭帯を損傷することがあります。


膝を安定化するために膝の裏にある小さな骨の周りに糸をかけ、その糸をスネの骨に通しキツく結びます。



これはちいさなチワワの例です。レールの溝が浅くなっています。グレード2ですが頻繁に脱臼し痛みをともなっていました。

溝を深くしています。

この例では脛骨の内旋がやや強く見られたため、脛骨粗面の転植をおこないました。
 

この例はパグの膝蓋骨脱臼です。グレードはほぼ3です。痛みを伴っており、しょっちゅうびっこをひくとのことでした。脱臼を繰り返していたため軟骨にびらんがみとめられます。

溝を深くしたところです。

脛骨粗面の転植するために骨切りをおこなっています。


脛骨粗面を転職しその部位で固定するためにピンを打ち込みます。



この例はチワワのグレード2ですがやはり痛みを伴っていました。

これはレールの軟骨部分の下を削っています。トンネルを掘ってそこにレールを落とし込みます。

落とし込んだところです。この方法のいいところは深さに自由があり、適度なところで固まってくれるところです。



ヨークシャーテリアのグレード3で脛骨粗面移植をするために骨切りをしています。

適当なところで固定するためにピンを打ち込みます。



この例は小型のミックス犬です。グレードは3に近い2でした。膝蓋骨を内側に引っ張っている縫工筋を膝蓋骨から切り離しています。これにより引っ張られるテンションが少なくなります。




溝を深くしています。
 
皮膚の縫い終わったところです。軽度な場合には傷が目立たないように膝の内側を切開します。多くの操作が必要な時は外側の皮膚を切開しています。


グレード2のプードルの例です。膝蓋骨と踵の位置に対し脛骨粗面の位置が内側にあるのがわかります。

まず、滑車溝造溝術を行いました。この例では軟骨を三角に切り出す方法で行っています。
切り出したあと、さらに溝を深くします。


そこに切り出した軟骨を戻します。この方法は他の造溝術に比べ深さが限定的です。脱臼の程度が軽度の場合にすることが多いです。


膝窩筋腱を切離しています。スネの骨の内側に捻れている程度が強い場合には膝下筋腱を切離します。
これを行うことにより、脛骨粗面の転植をしなくても良くなる場合があります。





これは太ったチワワのグレード2から3です。

脱臼する部位がかなり上の方でしたのでブロック状に軟骨を切り出しています。

切り出したブロックです。もとにもどしたあとはすぐにくっつきますので心配いりません。

溝を深く削っています。海面骨は血流の多い場所ですので結構出血します。でもすぐに止まります。


軟骨ブロックを戻したところです。

キレイに深化しているのがわかります。

脛骨粗面をメスで切っています。

脛骨粗面の転植をしピンで固定します。

内側のテンションを和らげるために縫工筋を膝蓋骨から切離しています。

さらに内側広筋も切離しています。



これはミニチュアピンシャーのグレード2です。溝を深くするのと、筋膜を縫縮して終了です。グレードの軽いものではこれで十分なことがほとんどです。




シーズー×ヨーキーミックスです。グレードは3でした。

切り出したブロックです。



ブロックの底部を削り、そこにブロックを戻すことで溝を深くします。

脛骨粗面移植を行うために骨切りをしています。
 
鱗状に縫縮しています。


ポメラニアンのグレード2です。膝蓋骨がはずれたり、戻ったりを常に繰り返していました。
その影響で軟骨が潰瘍を起こしています。はずれている時に痛みがあったことが想像できます。


鉗子先の上にあるのは膝窩筋腱です。膝から下が内旋(内側に捻れる)するのを防ぐためにこの腱を切離することがあります。この腱を切っても歩行に影響はありません。

膝窩筋腱を切離しているところです。これにより脛骨粗面の転植をしなくてもすむことがあります。





これはプードルのグレード4です。右手の人差し指の先にあるのが膝蓋骨〜膝蓋靭帯〜脛骨結節です。本来は正面に位置しますがこの例ではここからまったく動きません。

膝蓋骨の内側を切開し、あるべき位置にもどそうとしています。

滑車溝の造溝術を終えたところ

脛骨粗面移植を終えたところ。かなりの距離を転移しています。

伸びきっている外側の筋膜です。これは切り取ってしまします。



これは例外ですがプードルの膝蓋骨外法脱臼にRudy法という方法で整復しているところです。

膝の裏の種子骨と膝蓋骨の周囲に糸を通し反体側に引っ張られるテンションに対抗します。




以上、膝蓋骨脱臼に対する手術の様子をご紹介いたしました。術式に関して、これは私がいいと思い選択している方法ですので他にも様々な方法がありますので参考程度にしていただければと思います。
 膝蓋骨脱臼に関しては構造的にすでに自分の力ではどうしようもないくらい変形してしまっているものです。サプリメントやレーザーをあてたりして何とかなるものではありません。屈伸運動等でなんとかできるのもグレードが低くてかなりの若齢に限ってのものだと考えますので、安易に手術しないでなんとかしようとせずに必要な時は手術をした方が長い人生を考えた場合にいいかと思います。膝蓋骨脱臼でお悩みがあればぜひご相談ください。




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投稿者: 制作