2013.08.04更新

会陰ヘルニアは去勢していないオスに多く発生します。お尻の周りの筋肉が弱く、細くなってしまうため穴があいてしまい、そこからお腹の中の脂肪や腸、膀胱、前立腺などがでてきてしまう病気です。放っておくとおしっこが出なくなったり、便が出なくなったりします。治療は外科手術による整復が第一選択です。

会陰ヘルニア内に膀胱が逸脱している。造影剤で白くなっているのが膀胱です。重度になると排尿困難により尿毒症を引き起こします


こちらは会陰ヘルニアにより直腸が拡張し大量の固くなった糞塊が溜まっている。糞塊が固く巨大になると排便困難になることがあります


手術を紹介します。
手術法はたくさんあります。そのなかでどの方法を選択するかは獣医師の判断となります。
軽度の場合には周囲の筋肉や腱、骨膜などを糸で寄せることで整復可能です。しかし重度の場合にはさらにポリプロピレンメッシュやシリコンプレート等を使用します。最近ではなるべく人工的な材料をからだの中に残さないようにするために周囲の筋肉や睾丸を包んでいる丈夫な膜を使用する方法なども考えられています。

私の場合は一つの方法にこだわらず、そのコに一番合った方法をその都度考えて選択します。
今回の例は睾丸を包んでいる丈夫な膜を使用しています。

まず手術前の写真です。肛門周囲が盛り上がっているのがわかります。


まず、左側を切開し中の状態を観察します。お腹の中からでてきた脂肪で満たされています。
でてきているものをお腹に押し入れ、不要なものは切除します。そしてそこに睾丸を包んでいるしょう膜を引き込んできます。
  

そのしょう膜を肛門の筋肉や靭帯、骨盤の骨膜などに縫い付け、固定します。



反対側も同じように整復します。
 


最後に皮膚を縫合して終了です。




術後10日の写真です。ふつうのおしりに戻りました。


この睾丸を包むしょう膜を使用する方法は異物反応を起こさない、感染を起こしにくいなどのメリットがあります。反面、デメリットとして他の方法と比べ少し時間がかかります。それと去勢してあるとこの方法は使えません。ですので未去勢の比較的若くて元気なワンちゃんや異物反応を起こしやすい犬種には非常によい手術法だと思います。逆に高齢のあまり麻酔時間を長くとれないコにはメッシュなどの人工材料を使うのがいいと考えます。その他重度の場合に直腸や精管を腹壁に固定する方法を併用する場合もあります。


                             東京都 調布市 西調布犬猫クリニック

投稿者: 制作